以前のブログで「MBA後のキャリアは戦略が大切」と書きました。
今回はその補足として、シンガポールでの採用トレンドとMBA後のキャリアを築く上での考え方を具体例を交えながらお伝えします。
シンガポールの採用トレンド
まず理解しておきたいのは、シンガポールの採用は 「ローカル人材を優先する仕組み」 になっていることです。
政府がローカル人材の雇用を重視しており、外国人を採用するには EP(Employment Pass)の基準 が厳しく設定されています。
給与要件も年々上昇しており、企業にとって外国人採用は負担が大きいのが現実です。
その結果、日系企業を含め一部の企業はマレーシアやタイに拠点を移す動きも出ています。
つまり、シンガポールでの採用は現地人材優先・外国人は選ばれし存在という構図になっているのです。
転職のコツ ― 経験をリンクさせる
次に大切なのは、自分の経験をどう次のキャリアに“リンク”させるか。
シンガポールの採用は即戦力採用が基本です。厳しい言い方をすれば、MBAの学歴そのものはレジュメ上で大きなプラスにはならないことも多いです。
よく受ける質問に、
「MBA中に異業種や異職種でインターンを数ヶ月経験したのですが、これはアピールになりますか?」
というものがあります。
ヘッドハンター目線で言うと、それは正直あまり強い材料にはなりません。
なぜなら、その領域には既に何年も経験を積んだプロフェッショナルが存在するからです。
採用側にとって、短期間のインターン経験を評価する理由は乏しいのです。
一方で、自分の経験をうまくスライドできるケースもあります。
たとえば金融業界で経験を積んだ人が、MBA後にコンサルティング業界へ転職するケースがあります。この場合、金融業界で培った専門知識やネットワークが、そのまま金融系プロジェクトに活かされるため、比較的スムーズにキャリアをスライドさせることができます。コンサルティングファームは多様な業界の案件を扱うため、業界ごとの専門性を持った人材を常に必要としています。そのため、自分のバックグラウンドを強みに変えやすい環境だと言えます。
また別の金融業界出身者の転職成功例では、金融にテクノロジーを掛け合わせたフィンテック領域に進む人もいます。
これは「金融」という軸をベースにしつつ、新しい分野に拡張していく典型的なキャリアパスです。
重要なのは、金融業界という確固たる軸があってこそ、コンサルやフィンテックといった別の分野へスライドできるという点です。
MBAはその“橋渡し”としての役割を果たすに過ぎず、土台となる経験があるからこそキャリアの広がりが生まれるのです。
キャリアは5つの軸で考える
MBA後に限らずですがキャリアを考えるときは、業界・職種・タイトル・給与・ロケーションの5つの軸を整理してみることをおすすめします。この5つを同時に変えるのは不可能に近い。たとえば「日本からシンガポールへ(ロケーション変更)」をする時点で、すでに大きな挑戦です。僕自身、人材業界で日本からシンガポールに転職した際、給与もタイトルも下がりました。
同じ業界・同じ職種であっても、ロケーションが変われば仕事内容や仕事の進め方は大きく異なります。
たとえばシンガポールの採用は日本と比較するとスピード感があり、LinkedInで候補者に声をかけ、近くのカフェでカジュアルに面談。その後の選考もオンライン中心で、2週間ほどで完結することも珍しくありません。またコミュニティが狭いため、求人に合わなくても友人を紹介してくれることもよくあります。
企業からすれば、新しい環境で本当にパフォーマンスを発揮できるかは不確定要素が多く、必ずしも給与が上がるわけではありません。
むしろリスクを見越して、条件を下げて提示されるケースもあります。
だからこそ、一度にすべてを求めるのではなく、経験を活かしつつ足場を固めていく戦略が必要なのです。
まとめ : 一度にすべては手に入らない
海外MBA後のキャリアでよくある誤解は、「MBAを取れば一気にキャリアジャンプできる」という期待です。
しかし実際には、
- ロケーションを変えるだけでもハードルが高い
- さらに業界・職種まで同時に変えようとすると難易度は跳ね上がる
だからこそ、まずは既存の経験を活かしながら足場を固めること。そして理想に近づけるには、時間をかけてステップを踏む忍耐が求められます。MBAは「魔法のチケット」ではなく、キャリアを築くための一つのステップです。忍耐力を持ち、5つの軸を戦略的にコントロールしながら、一歩ずつ理想に近づけていく。
これが、シンガポール転職の現実であり、MBA後キャリア成功の秘訣だと僕は思います。

その中でMBAでは合理的意思決定として学んだ視点も!!
Job choice as a rational decision
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シンガポール国立大学の魅力について──なぜ僕はNUSを選んだのか
シンガポールには複数の優良MBAがある中で、僕自身が選んだのは NUS(National University of Singapore)。
次回は、なぜ数ある選択肢の中からNUSを選んだのか、その理由をリアルにお話しします。
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